2026年、なぜ人々は渋谷モディへ向かうのか?「HMV&BOOKS SHIBUYA」が示すフィジカルメディア逆襲の現場
hmv&books shibuyaは、音楽と活字がデータとして空中に浮遊する2026年の東京において、圧倒的な存在感を放ち続けている。渋谷スクランブル交差点の喧騒を抜け、公園通り沿いの「渋谷モディ」5階へと足を踏み入れると、そこには画面のスクロールでは決して味わえない濃密な熱量が広がっていた。ストリーミング再生数がすべてを割り出す時代だからこそ、人々は手で触れられるパッケージと、偶然の出合いを求めてこのビルを訪れる。
CDショップの衰退が叫ばれて久しいが、国内外のカルチャーフリークがhmv&books shibuyaに集う光景は、もはや日常の風物詩だ。棚に並ぶのは単なる商品ではない。アーティストの愛用アイテムから限定のZINE、アナログ盤の再発セレクトまで、都市の今を切り取った独自の編集が施されている。ジャケットをめくる指先の感覚や、他者の熱気に触れる臨場感。それらすべてが、効率主義のデジタル空間に対する強烈なアンチテーゼとなっている。
1. フィジカル回帰の最前線:Z世代がアナログレコードに熱狂する理由

レコード針が溝をなぞるスクラッチ音が、7階のヴァイナルフロアに響く。かつてはオーディオマニアの専売特許だったアナログ盤だが、現在このフロアの主役は20代の若者たちだ。スマホの画面でジャケットアートワークを見るだけでは満足できない層が、30cm四方の大きな紙パッケージを「所有するアート」として買い求めている。
再発盤のシティポップから最新のインディーズロック、さらにはアニメソングの限定LPまで、ラインナップの幅広さは圧巻だ。試聴コーナーでは、ヘッドホンをつけた若者が真剣な眼差しで盤面に耳を澄ませている。音の「データ」を買うのではなく、針を落とすという「作法」と「モノの質感」を買う。この価値観の転換が、渋谷の真ん中で加速している。
2. 5Fから7Fまで駆け巡る「推し活」経済学と限定ポップアップの熱気

5階から7階へと階段を上がるたび、フロアの表情は劇的に変化する。特に目を引くのが、フロアの一角を頻繁にジャックする期間限定のポップアップストアだ。K-POPアーティストのカムバック記念展示や、人気アニメの原画展、クリエイターのアパレルコラボなど、週替わりで展開されるイベントは常に長蛇の列を生んでいる。
「推し」のパネルと記念撮影をし、会場限定のトレーディングカードをその場で交換し合うファンたちの姿は、現代の都市文化そのものだ。ネット通販で完結させず、あえて現場に足を運ぶこと自体がファン同士の連帯感を生む。ここでは、買い物という行為が「参列」という体験へと昇華されている。
3. 独自キュレーションが生む偶然の発見:アルゴリズムへの反逆

アルゴリズムによるレコメンド機能は極めて優秀だ。ユーザーの好みを正確に分析し、似たような楽曲や書籍を延々と流し続けてくれる。だが、その快適な「フィルターバブル」に息苦しさを感じる人々が、今この場所に救いを求めている。
フロアの棚づくりを担当するスタッフの個性が光る手書きPOPや、ジャンルを横断した変幻自在な特集コーナー。そこには、計算では絶対に導き出せない「飛躍」がある。写真集の隣にノイズミュージックのCDが置かれ、その上にはサブカルチャー誌が並ぶ。思いも寄らなかった作品との遭遇こそが、実店舗の棚を歩く最大の醍醐味なのだ。
4. インバウンド客を惹きつける「日本のポップカルチャー文脈」の編集力
免税カウンター周辺には、英語、中国語、フランス語など多言語の会話が飛び交う。訪日外国人観光客にとって、ここは単なる土産物屋ではなく、現代日本のポップカルチャーを包括的に体験できる観光名所と化している。
海外で爆発的な人気を誇る80年代日本のシティポップや、世界的な評価を受けるゲームサウンドトラックのLP、さらには豪華装丁のマンガ・アートブック。日本独自の文脈でキュレーションされた棚は、海外のコレクターにとって宝の山だ。自国では手に入らない限定盤を求め、スーツケースを引いた外国人客が真剣に棚を物色する姿が定着している。
5. リアルな熱気と距離感:イベントスペースが創り出すファンコミュニティ
6階および7階のイベントスペースでは、連日アーティストのトークショーやサイン会、ミニライブが開催されている。大型ホールやアリーナとは異なり、演者と観客の距離が極めて近いことがこの空間の最大の特徴だ。
目の前で憧れのクリエイターが語り、自分の名前をサイン本に書き入れてもらう。そんな濃密な数分間のために、ファンは各地から駆けつける。デジタル上の配信ライブでは絶対に代替できない「同じ空気と音圧を共有する喜び」が、この場所には常にあふれている。
6. 2026年、都市型メディアストアが提示する「次世代の居場所」
かつて街のCDショップや書店は、単に物を売る場所だった。しかし、情報もコンテンツも無料で瞬時に手に入る時代を経て、その役割は「都市のサードプレイス」へと変化を遂げた。
買い物のついでに新しい音楽を知り、イベントで同じ熱量を持つ仲間を感じ、紙と盤の触感を楽しむ。効率とスピードが最優先される現代社会において、立ち止まって五感を開くことができる場所。文化の発信地・渋谷において、この大型複合ストアが果たす役割は、今後さらに重要性を増していくに違いない。 (出典: hmvbooks shibuya(Yahoo!ニュース))